『遊牧民にとって現代は終末の時代である』遊牧民のほとんどが定着化したり、近代化しつつあり、自然と一体となって暮らしている遊牧社会は、ごく一部しか存在しなくなった。

19991年発刊”大自然に生きる人々”文化人類学教授 藤木高嶺さん著より


図書館で借りてきた本を読んでみるとそう書いてありました。1991年発刊ということは、今より、30年も昔のこと。
北インドの山岳地域で織物をしていると、有名な織物の地名、キナウル、クル、スピティーという3か所をよく聞きます。洗った後の羊毛をコーミングする、政府運営の電動カーター場へ行くと、羊毛を夜行バスで運んできた、いろいろな地方の山岳民族に出会います。以前は遊牧で有名だった、ラフールやスピティーの人たちが、羊飼いが減ってしまったから、羊毛が手に入らない。いろんな色が手に入らない。値段が高くなっている。と、しきりに言っています。そして、インドでも有数の有名な羊毛の地域に住む彼らが、私の持っているウールを見て、『あんたのところは、まだたくさん羊がいていいね!』というのです。


先日、5年ほど前にインドで住んでいる村で売ってもらった、ショールに再会しました。そのころ、本当にお金がなかったので、友人に販売し現金化したものでした。そのショールは、今だからわかるのですが、機会を一切使わず、古い方法で作られている貴重なものでした。

5年前の私は、そのショールと同じ工程の織物が、また、簡単に中古で手に入ると思っていたのです。でも、今の私は、それがもう探しても、探しても、買えないことを知っています。もう、新しいものが作られることがないので、中古の物もないのです。


今、私は、もう作られることのない古い方法の織物の織り方をマスターして、その文化を絶やさないようにしたいと修業を積んでいます。予想では、あと10年ほど今のように修業を積んでいけば、何とかできるようになるのではないかと思っています。そして、先人たちの作った布は、私にとっての教科書です。
『あーなんで、私は、あんなにやすい値段で売ってしまったんだろう。』
自分の無知を、過ぎた過去に恥ずかしくなりました。

今は、きちんと保管してしかるべき場所で皆さんに見てもらえるよう、販売目的ではなく古布を集め始めました。そして、今出来上がっている、一枚。一枚の布の尊いなと改めて思いました。

一枚一枚が、唯一無二の作品なんだと。


私自身も、あの山の人たちが繋いできた文化が、本当に途絶えてしまうなんて思ってもいなかったけど。とても残念ですが、インド全土から。ネパール全土から。たったこの数年で、羊飼いもそれを加工できる人も激減しているのを、自分の目で見て感じています。
世界中から、今日も、多くの動植物や昆虫が、絶滅していってしまっているようです。同じように、人間が太古の昔から繋いできた、文化や暮らしが消失されて行ってしまっているようです。山では木が切られ、収益の効率的に得られる農業の体制へ移行していったり。

家畜の飼い方も人道的ではなく、工場のように無機質になっていっているようです。
インドで私の住んでいる村の人たちも、羊飼いを続けていくことよりも、観光業に移行しようかと考えてみたり。でも、生まれた時から、先祖代々、遊牧民の彼らには、今更自分たちには、観光業は難しいと思いなおし。今は、あと十年。とりあえず、10年、私が羊毛を買い取るから、羊飼いを続けてほしいと話し。彼らもまた、他の人には原毛は売らないから、日本に行っても、春の野草の取れるころに帰ってきて。

またみんなで、今年もウール製品を作ろうといい。ほぼ毎日、インドから電話がかかってきて、今日は何を作った!とか。みんな元気だから、とか。まだ雪が降ってる。とか。ちゃんと作業を進めてくれている様子も、日々の暮らしのことも電話でお話してくれています。


糸紡ぎや、生きること、人生にとってのかけがえのないものを教えてくれていた、長老たちが相次いで亡くなって。はっきりとした現実として、後継者不足のこの文化の終焉が近いことを感じていました。
昔ながら暮らしを続けるようになんて、私たち先進国の人からは言えません。ただ、先進国に育っているからこそ、一度失ってしまったら、それをやり直すことは、とても難しいことだと知っています。
存続の危機にある山岳遊牧民の伝統の紡ぎや織り、その暮らしと共にある文化を継承しようと思うことは、その終焉をみとることに同じなのだと、ある頃、気が付きました。それは、とてもとても、悲しいことでした。

美しい地球の環境破壊のニュースも、毎日、流れてくる世界の悲しいニュースにも。それに対して、怒ったり、悲しんでしまうけれど。


私は、Bella Terraという、山岳遊牧民の固有の文化の中から生まれてくる、古来の方法で生産された羊毛製品の生産は、あと10年。続けられたら上出来だと思うようになりました。なぜなら、今いるメンバーの中の、糸を紡ぐ人は、あと10年後この世に残っていないと思うからです。

その現実はとても悲しいけれど。年々減っていく長老たちを見送りながら、残ったメンバーで冗談を言いながら。みんなも気が付いているけれど、終焉なんてないかのように、笑顔で遊牧に出かけ、糸を紡ぎ続けようとする人たちがいます。
もしあと10年しか時間が残っていないのならば。この十年、最高の笑顔でみんなと時間を過ごし。この10年で、できる限りの技も、むかし話も、私のこの身体に刻み込もうと思う。そして、それを伝えていこうと思う。一つの終わろうとしている文化の終末を看取る覚悟を決めて、笑顔で前に進もうとしている今。


循環型農法で、食の自給自足、古民家再生、さらに、衣の自給自足で、羊を飼い始めた方々に日本でお会いしました。

彼らの住む家は、築百年以上の農家の建物で。昔は、家の一階部分に馬の部屋があり、二階には養蚕の部屋があったよう。家の周りは田んぼと畑。鶏や馬の息遣いが聞こえ、お蚕さんの葉をはむ音。人は田畑を耕し、布を織る織機のパタンパタンという音。そんな暮らしをするための立派な家屋を、100年ほど前の日本の方たちは建てていました。

そして、そこには、その暮らしを再現へ、ゆっくり時間をかけて向かっていく、若者たちがいました。

5年前に手放したショールに再び身を包み、立派な古民家から、満開の桜とその下に流れる川の流れを見ていました。そのほんの数分が、あまりにも美しく。儚くて。
流れる川の音。古い建物の木のぬくもり。満開の桜。ヒマラヤの古布。春の息吹。
うたかたのこの世に遊びに来ている。無知でちっぽけなこの存在を感じ。
古民家の柱の木は、何百年も前の空気を吸って、水を飲んで、土に根を下ろし、太陽の日を覚えているのでしょうか?ほんのひと時の満開の桜の花が、ひらひらと舞い、ピンク色の絨毯を敷き詰めるように。その下を流れる川の、流れ続ける姿を変えることは止められないように。
この世の中は無常という法則とともに。留まることはないけれど。今日生きている。その奇跡に感謝して。幸せな軌跡を刻めるように。
あきらめることなく。絶望することなく。悲しむことなく。
上を向いて。微笑んで。
いつの日か美しい地球と大いなる宇宙へ還る日まで。
美しい地球とすべての生命に愛を込めて。


今回の投稿の写真は、今は亡き、お世話になった長老たちの写真です。

すべての先人に心からの感謝と尊敬を込めて。


よろしければ、この後のお話会、糸紡ぎのクラスにいらしてくださいね。糸紡ぎの伝承会。今回の帰国の予定のクラスは、ありがたいことにほとんどが満席となってしまっています。すべての日程の詳細を張っておきます。

4月17日(日)お話会 "美しい地球へ愛を込めて"
4月20日(水)世界最古の糸紡ぎ”紡ぐ集い” 満席
神奈川県 Asaba Art Squea  お問い合わせaotowa1248@icloud.com
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4月22日(金)子供向けプログラム
上野原オルタナティブスクール・にじたね
4月23日(土)世界最古の糸紡ぎ”紡ぐ集い”
24日(日)お話会 "美しい地球へ愛を込めて"
Bella Terra 紡ぐ市
hotoli内 シェアリビングつるしま 山梨県上野原市 
ご予約お問い合わせ teraquartzjapan@gmail.com
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4月26日(火)お話会 "美しい地球へ愛を込めて" 満席
山梨県 北杜市

4月30日(土)お話会 "美しい地球へ愛を込めて 満席
5月1日(日)世界最古の糸紡ぎ”紡ぐ集い”
山梨県 ピタラファーム 

5月7日(土)お話会 "美しい地球へ愛を込めて"
神奈川県二宮町 ふたは
お問い合わせ info@futaha.life

5月11日(水)世界最古の糸紡ぎ”紡ぐ集い” 
神奈川県 Asaba Art Squea  お問い合わせaotowa1248@icloud.com

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