一日として、同じ朝日は昇らぬように
ひと夏として、同じ草花は荒野には生えぬ
羊毛すなわちそれは
ヒマラヤの草木、水、そして羊という生命そのもの
それが紡がれるようになるまで
汚れを丁寧に手で取り除き
氷河から流れ落ちる、せせらぎで
薪で湯を沸かし
丁寧に洗う
洗った羊毛は天の陽の下、光を楽しみ
宵は羊毛たちも軒の下へ
そうして、数日かけて乾かす
祈りとは、ただ念仏を唱えることではなくて
冷たい川の水の中、手で羊毛を洗いつづけること
ただただ糸を紡ぐこと
そうして、ただただ生きること
それも、一つの祈りの行いなのではないかと
そんな風に思うのです
白の羊、千匹いれば、そこに千色の白があり
茶色の羊といっても、こげ茶から赤茶まで。。。
無限のお色がございます
木の茶の色がそれぞれに違い
緑の葉がそれぞれに違うように
その一匹、一匹違う羊の毛を混ぜて
グレーや薄茶、グラデーションカラーなど
今期の作品となるお色を配合していきます
一年に一度か二度しかしない作業
出来上がる羊毛の風合いは
原毛の質
洗い方、乾かし方で
大きく変わってまいります
今年は
どんな風合い
どんなお色の
原毛たちに仕上がりますでしょうか?
今期の羊毛には、今後二度と出会うことができません
この色にしたいと望むのではなく
この質感にしたいと望むのではなく
一瞬一瞬移り変わる
この万物のように
この大地に生える草の
この肌をなぜる風の
暖かい太陽の
冷たく澄んだ水の
そこに生きる羊と人々の
命の色を、ひきたてられるよう
私のこの手を
この身体を使うことができますよう
こうして、原毛が出来上がり
糸を紡ぎ始めることができるのです
布について
布は命の結晶
毎年異なる、自然の雫の原毛が
糸になる
世界で太古から伝わる
でも、今では、この糸の紡ぎ方をする人は
ほとんどいない
そんな方法で紡ぐ
一人一人の見た目が違うように
その糸の見え方も
紡ぎ手ごとに違い。
一人一人の性格や生きてきた道が違うように
その糸のふれた感じも
紡ぎ手ごとに変わってくる
そうして紡がれた糸を
竹と糸で、できた織機で織る
日本では、もうほとんど、ほとんどが
メタルとプラスチックで
できた道具に変わってきましたが
この土地では
今も変わらず、古い道具で紡ぎ、織っています。
その、竹と糸でできた布にしか
だせない質感というのが
あるように思います
一人一人の紡いだ糸が違うように
一人一人の織る人により、布の質感、触り心地も変わってまいります
一枚、一枚、織られる布は
一人一人の、性格や、生き方を、感じさせます
羊飼いのお爺さんに紡ぎ通りを頼むと
民族衣装感が強い布になると思う
纏った時に THE 羊飼い
雪の日も、雨の日も、火を焚いて、羊を追いかけ歩き続ける。それが俺の人生だ。
そんなサブタイトルが付きそうなショールになることでしょう
羊飼い兄弟のおばあさんに紡ぎ手さんを
羊飼いの娘さんに織り手さんに頼むと
秋の太陽の下、干し草のにおいと、子羊がぴょこぴょこ飛び跳ねる
みたいな。 とにかく優しくて、すべてうけとめるよ~というような
形容できるショールができることでしょう
この時期の私は
どんな感じの作品を
どのくらい今年は作れるだろうと
考えながら
数十キロのもの羊の毛を
丁寧に掃除をするところから
始めます
羊飼い達は
ヒマラヤの高地への
ひと夏の
遊牧のたびに出発しました
数百匹の大きな羊の群れが
4000Mを超える
ヒマラヤの高地に向けて
遊牧に向かう様子は
山を逆さに流れる
白い大きな川の流れのようだったと
それを見た人は言いました
2022年
今年もヒマラヤを
遊牧民族が歩いています
この泡沫の
今にも消えてしまいそうな
伝統を本日まで繋いる
番人たちへ
想いを込めて