羊を飼う時に、遊牧した方がもちろんいいに決まっているのだけれども、広大な遊牧地がなかったり(日本の場合は特に)世界的に見ても遊牧でなく、柵の中に羊を飼う理由の一つに、管理が楽になるという理由もあるそうです。
ふわふわの毛の羊が、大自然の中を歩き回れば、毛にもちろん、たくさんの汚れ、洋服についてくるような、ちくちくする植物のかけらが山程ついてくるのです。
オーストラリアにいた時、牛と羊を飼育しそれを生業としている牧場の広大な土地に、キャンピングカーのキャビンを借りて3,4か月住んでいました。羊のいた囲いには、木が一本も生えていない、草も生えていない、グランドのような土地の中で一生を過ごしていました。
確かに、そのように羊が過ごせば、羊毛にちくちくした汚れはついてきません。
ちくちくの植物がついていると、糸を紡ぐ時に本当に本当に大変です。
遊牧のウール製品を作る時に一番大変な思いをするのが、この汚れを取るところです。
そして、この作業をしてくれる人は、お金を払っても全然いないのが、私の抱えている問題の一つです。
Gitaさんは、他の人の洗った原毛だと、櫛掛けしても汚れが落ちきっていないと言って、自分の分は自分で、汚れを取って洗うと言って、この2,3週間、ほぼ毎日、2-3時間ウールの掃除をしています。
彼女に他の人が紡いだりする分、原毛も洗ってもらえるよう頼んでほしいと、他の紡ぎ手さんからも言われるのですが、40kgも、彼女クオリティーで洗っていたら、紡ぐどころが、掃除をして洗うだけで、大げさでなく一年が終わってしまいます。
なので、彼女と旦那さんは、自分たちが紡いで編む分だけ、自分達で掃除から、洗い、紡ぎまでしたいと言いました。
朝は寒いので太陽が出るまで、薪ストーブの横で過ごします。
その最中にも、ウールの掃除。
子どもの頃は、おじいさん、ひいおじいさん、おばあさん、老若男女関係なくこうして過ごしていたんだよと言います。
今日も、GITAさん、旦那さん、と薪ストーブの横に座り、午前中は三人でウールの掃除をし、午後は、私とGitaさんは新しいデザインの打ち合わせをしながら編み物をして、旦那さんは、引き続きウールの掃除をしていました。
一日かかかって、レッグウォーマー片方分くらいしか掃除できませんでした。
もちろんこれは、40kgの原毛の中でも最高グレードの毛糸になります。
本当は、全てのウールをこのグレードまで引き上げたいのですが、あまりにも時間がかかるので、このようなウールは上等なウールはショールやセーターなど高額商品、それもオーダーメイドにのみ使うことができるのが、現状です。
彼女の仕事は丁寧で。旦那さんと隣同士に座って原毛の掃除をする姿は、彼らが話してくれる、子どもの頃に見た、おじいさんや、おばあさんの姿そのものじゃないかなーと。彼らといて思います。